
過ごす人
暮らす人
暮らす人
株式会社W/廣岡大亮さん
王子公園地域で不動産取引やマンション賃貸業を営む家に生まれ、人と街に「創造性」と「Well-being」を実装する会社を立ち上げた廣岡さんは、住まいについて独自の考えを持っています。
「一般的な不動産屋って、まず物件の紹介から始めるじゃないですか。家賃がいくらで、間取りがどうで、築年数がどうって。そして最後に、コンビニまで何分とか、こんな学校があるとか、こういった暮らしができますよと、ちょろっと街を紹介する。そこにずっと疑問を感じていたんです」。
住まいの提案は暮らしの提案であるのにもかかわらず、生活していく街の紹介をあまり重視していない。そんな不動産業界には、暮らしをサポートする視点が足りていないのではないかと話します。
「生活はプライベート空間である家だけで完結するものじゃありません。日常的な買い物やご近所付き合いなど、街のパブリックな部分もセットで暮らしなんです」。
大学時代に生協のお手伝いをしていた廣岡さんは、学生に物件を斡旋する際、生活のマニュアルを制作して提案していたそうです。単に箱を紹介するだけにとどまらず、そこから広がる暮らしにおいて、生活の舞台である街の説明が必要だと感じたからこそのアイデアでした。
大学卒業後、生まれ育った神戸を出た廣岡さんは東京のコンサルティング会社に就職。そこで大きな転換点を迎えることになります。
「リノベーションスクールに参加し、まちづくりプロジェクトに携わることになったんです。ギフト券をつくって暮らしと商店街をつなぐ動線を引いたり、地主さんの協力を得て建物の一階にカフェを誘致したり。プライベート空間に閉じた暮らしに対し、パブリックな場に出てきたいと思える仕掛けをたくさんつくりました」。
しかし、活動を進める中で廣岡さんの中にある違和感が生まれます。
「自分はこの街の人間じゃない。根を張る場所はここじゃないなと感じました。じゃあどこになるのか。答えは自分の生ま育った街、神戸でした」。
地元に戻った後はコンサルティング会社を設立。人と地域の関係をデザインし、日常の中に「創造性」や「Well-being」を実装すべく、暮らしのワークショップや次世代リーダーの育成など、さまざまな取り組みを行ってきました。
「神戸に帰ってきて、神戸人は改めて豊かだなと感じました。文化を愛する心と余裕がある。そのスタンスが、懐の深い街・神戸をつくってきたんだろうなと思います」。
街の風景に変化の波が押し寄せている今、廣岡さんは何を思い、何を感じているのでしょうか。
「神戸は異文化を受け入れ、取り込み、発展してきた街です。その懐の深さは今なお残っており、私たちが住む王子公園地域も例外ではありません。移住者や若い起業家の誕生、新サービスの出店など、わくわくするような芽もたくさん出てきました」。
その後一呼吸おき、「しかし」と表情を曇らせて懸念点を付け加えます。
「市民の中から反対運動が出ているのも事実です。みんな街を愛する思いは一緒なので、対話を重ねることを諦めず、それぞれにとっての豊かさを実現できる懐の深い街を目指し、一歩一歩進んでいきたいです」。
自らの意思決定ができる余白があり、経済的な豊かさと社会的な寛容度を持つ街こそが、豊かな暮らしの土壌になると考える廣岡さん。街が過渡期にある今、人と地域のより良い関係をデザインするその腕に、大きな期待が寄せられています。